2019年1月1日火曜日

初夢にかえて

「それは、既存の非民主的なエリートを排除し、階層や素性と無関係に選んだ、優秀で鍛え抜かれた、公徳心の強い新エリートで置き換えるというものだった。そういう人たち(実際は男性)が国を引っ張る。新エリートは、二十世紀末の米国を支える屋台骨となった巨大な専門組織を管理すると同時に、史上初めて、すべての米国民にひらかれた機会均等の制度を創設する。事実、コナントは新エリートを正しく選抜すれば、民主主義と正義がほとんど自動的に強化されると想定した。指導層の入れ替えと米国社会の構造変化を導く大胆な構想ーー一種の静かなクーデター計画だった。
 チョーンシーとコナントの望みはいずれも実現した。米国は世界最大規模の知能テスト計画を開始、一つの結果(唯一ではない)として、新たな国家エリートを確立した。コナント、チョーンシーや盟友が創設した仕組みは今日、ごく普通に存在していて、まるで自然現象か、少なくとも環境に応じて自然に進化した有機体のように思える。だが、そうではない。人間が作り出したものだ。米国社会のどこにだれが落ち着くのかを決める組織的なやり方をわれわれが持っているのは、戦前、戦中、戦後すぐを通じた激しい主導権争いにより、ある特定のシステムが他の代替的なシステムに勝利したからである。」(『ビッグ・テスト アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか』ニコラス・レマン著 早川書房)

蟻が歩いている。たくさん歩いている。そこらじゅうに。一緒に歩いていると、人のようで、ビルの間や広場に、あちこちを覗き込むよう顔を動かしている。私は歩いていた。人混みをしばらく行くと、緑に開けた場所に出て、閑静な、おそらくは海岸近くに作られた森のようだった。あの木の奥に、銀色に輝いた建物があったな、と思い出し、ここは湾岸に開発された新しい土地だった気がしてきた。懐かしさのなかで、私は銀色に輝いたビルの会議室に、仲間とともに、議論を繰り広げていた。「私たちは地下に潜る。そして、残りの7割の民衆から、新たなエリート階層を発生させる。」議長役のようだったキリギリスが、立ち上がってそう言っている。破滅の危機を克服するには、エリート層を増加させる。次に誰が3割のエリートになるかは、その人たちの購買した商品履歴や、行動形態のビッグ・データから、AIが追跡調査している。私はどこに行けばいいのだろう。私は、自分に息子がいることを思い出した。息子は、選ばれるだろうか。そう思ったとき、私は古ぼけた団地の2LDKの家で、新聞を読んでいた。キッチンの奥には、女房がいるようだ。昼食の用意をしているらしい。ようやく、息子がとなりの部屋から起きてきた。「どうした? 選ばれたかい?」と私は尋ねた。「ああ。」と寝ぼけた声で、息子はキリギリスの顔になって答えた。その後ろで、女房が包丁を持って立っている。私は、そうだったな、と思い出した。地下に潜った3割のエリートのうち、7割が怠け者に変わって、やはり全体の割合は変わらなかったのだった。新聞を読んでいる者は大衆である。私は、7割に選ばれて、今日が、その執行の日なのだ。息子は、よだれを垂らしてこちらの気配をうかがっている。その後ろで、女房がにらんでいる。腹が減ってきたような気がして、私は目をさました。

去年の初夢ブログでは、民主主義について考えるのが課題、みたいな抱負を書き付けたような気がする。たしかに、そうなっているだろう。が、だいぶ色調が変わってきているような。身内でも、外でも。

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