2022年9月19日月曜日

「土中環境」を通る


台風が、また日本を荒らしている。いや、神風が、日本に怒っているのかもしれない。

 そんな中で、今日は幸いにも、無事千葉県は鴨川市までいって、「小さな地球」主催の高田宏臣氏による新著出版記念レクチャーに参加することができた。通り雨がきたくらいで、むしろ好天気のなかでの実習にもなった。

 高田氏の具体的な哲学や実践は、WEB上でも概要は知れるので、そちらにまかせよう。率先して手が動いていくような高田さんは職人肌だ。しかし町場の植木職人を30年ほどやってきた私とは、知識体系がまるで違う。むしろ正反対と言えるだろう。

 大正時代からのブルジョワ勃興によって定職化した都市部の植木職人のもっている経験知は、私の見立てでは、8割以上は間違い。盆栽に近い剪定の技術の本質的なところを推定して応用できて、はじめて残り2割の正しさが実践できるにすぎないだろう、と私は判断している。つまり、あくまで町場の植木職人の技術とは、近代文化が成立したそこをどうメンテナンスするかに集約されてしまうので、自然との関係において錯誤を抱え込みやすいのだ。

 たとえば、今日の実習でも、車止め兼用の土留めになる玉石の据え方の実践があった。その作法や考え方は、町場の技術からは考慮する必要がすでになくなってしまったものになろう。庭園を持つ屋敷の中で、マンションの敷地の中で、地下水の流れや水の浸透を考慮した柔らかい据え方など、町場職人はしないだろう。据える石の地面を、石の形に似せて柔らかくしてから、つまり石の座りをよくしてから地面に埋めて、バールか何かで突き固める、いわば土決め。が、やはり仕事では、そのほかに、石と石の間にできる隙間にモルタルを詰めて、植栽地から庭への水の流出を防ぐように施行する。周りの木や草による自然な決めでは時間もかかるから、その場での完結を志向する。

 私が高田氏の講習をみてみたいと思ったのは、その私が持っているが疑ってもいる技術体系を差異化してもらう契機をはっきりさせたいからだ。

 しかしもともとは、そうした植木職人としての文脈において、高田氏の仕事が関心の領域に入ってきたわけではない。

 このブログでも何度か言及したように、中上健次論三巻本を上梓した河中郁男氏のその評論の中での「観点」という用語が、量子論からきているのではないか、と推論し、そこから、量子力学のおさらい読書、そしてそこから派生したDNAらせん構造の発見延長によるRNAウィルス(細胞核はRNAウィルスの巣が進化したものではないかとも推定されている)、微生物(大腸内も含む)、そしてそこから、ハンス・ヨーナスやレヴィナスの他者論からまた量子論的現実に帰ってきたという円環のうちで、高田氏の実践にもっと近づいてみようとおもったのである。つまりは、文学の文脈からである。

 今日の講習でも、この「小さな地球」にかかわる東工大の建築家の塚本氏が、人の体内にある微生物との話と結び付けて発言した。それに、高田氏が、土中でも腸内でも、微生物の種類とは10万兆くらいあると言われているのだから、それを科学的に分類していたら、何年かかるかわからない、つまり、無限といっていいのだから、そんなやり方では無理なんではないか、と暗示するような発言もしていた。直接目に観察しえる微生物はこれとこれと名のある物質が作用してとか言うけど、その見えない背後で、多様な微生物の作用があるのだから、と。

 量子論の世界も、結局は、他者論にゆく。それは、なにもSF的にこの目に見える人間の現象世界とは違う他の現象世界が並列しているとか想像する以前に、この体の中の微生物の世界、それは人には観察できない世界作用をもっているが、その世界の変化を、私たちの体がたとえば危険信号と読み取って、もう気持ち悪くて食えない、やめよう、となっているのかもしれない。ということは、他の世界と、並列している、ということだろう。

 DNAがらせん構造に見えるのも、可視光線レベルでの抽象化にすぎず、おそらく本当は、つまり自然は、幾重にも重なった世界の広がりを持っているはずである。

 そこから、ゆえに、私たち人間はどう生きるのか、と考えなくてはならない。

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 それにしても、鴨川は久しぶりである。NAMで知り合った、二代目代表になった田中さんの棚田の活動に、幼稚園児頃の息子と一緒に参加して以来だろう。だから、十年以上は経つ。

講習がおわって、古民家で開いているカフェ・レストランで、カレーライスを食べていると、質疑応答で発言した女性と一緒になって、話がはずんだ。私とではなく、女房とである。当初は、台風だから行かないと言っていたのだが、朝の晴れ間をみて、ついてきた。その女性は、鴨川の山を崩した台地にメガソーラーを建設しようとしている開発に反対運動をしている団体の代表だった。二人は、千葉出身の椎名誠の話でもりあがっていた。その話のなかで、「田中さん」の名前ができてきた。加藤登紀子と同様なようにその名を知っているのが当然のごとく自然に会話にはさんできたので、それがNAMで知り合った田中さんと同じ人物なのか確認しそびれたが、たぶん、そうなのだろう。

 なんだが、女性同志のことだから、飛び火しそうである。

※ 「鴨川の山と川と海を守る会」勝又國江さん | Solar Sympo (megasolarsympo.wixsite.com)

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