福岡に住む、90歳前後であろう妻のおじさん、父の弟さんが、ときおり散文や短歌を送ってくる。判読しにくい手書きであり、意味を読み取るのも難しいのだが、最近いただいたものは、わかりやすい。そのなかからの、抜粋。
それと、その返事として出した私の歌。
戦後を、遊民的に生きてきたと聞いている。早稲田大学を出ているように思われる。小沢昭一のことを話してきたことがあり、短歌では、中井英夫の名をあげていたりした。市井で生き抜いた人物、の一報告、になろう。妻の祖父は、絵描きだったそうだが、戦中、非国民にされるので、隠れて描いていたとか。印象派のような、鰯の絵が、残っている。妻もダンスをしたのだから、何か、つながっていくようなものが、あるのだろうか?
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・かまど馬追わるるのみの身に有れど他に能なくただ生るがまま
・喧騒の人世は祭り踏み入りて変ふるは難き人生にて有り
・才知無く誇るべき無きわが身にてただ真をば求め行きたし
・大和には情大事の誇りあり文化が為の費厭はず
・虫類は社会為してもその仕組み酷薄なるは人に同じき
・情にてそこはかを知る和の誇りあはれをば見る慣はしに有り
・白蟻の群為す明かり都市にあり生活劇場営みてをり
・人々は逃れむとして無意味にもシャッター降ろし廃墟見せをり
・かまど馬奏でも為さず闇に居り明かり求める術もなきのか
・大都会並木の化粧青白きLEDの冷たきひかり
・かまど馬その一生に便所なる名付け為されて生の意味知らず
・翅亡くし耳とて怪しかまど馬生きをることに修行とも見ゆ
・狭き隙に脚挟まれば邪魔に有り脚さへ断ちて明かり求むる
・倅住む家は土地には建ちをらずわれら夫婦は死ぬを競ひをり
・子を持てぬものと決まりしわが子にはこの世汚さぬことを祝ぎなむ
・共喰ひの生とは見るなり子を負ひて生命与ふる親を知るなり
・子に喰はる類か否にかかまど馬終には只物にと帰る
・民主とは遊び許さぬものにして個性なき群が青白くあり
私の返歌……「かまど馬」に対し、家に出没したばかでかいアシダカグモや、細長いユウレイグモを連想した。
・掌を開けるごとき家蜘蛛よ妻の命日竦む身で待つ
・害虫を食するものと言う蜘蛛と遺影を前にじっと対峙す
・守るべきは家にやあらん白壁にかそけく歩む幽霊蜘蛛
・帰省するや二輪にまたがり出かけ行く息子のこせし爆音の魂(たま)
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