2011年9月2日金曜日

放射能と(再)占領

「チェルノブイリの事故からすでに五年が経過した現在、被害者が何万人に上り、爆発事故のあった半径三〇キロの範囲内だけでなく、その地域のみならず共和国全体がまるごと放射能に汚染されたことが判明している。私は、真実を求めた当時のたたかいがどれほど重要だったか、一九八六年四月のあのころよりはるかにはっきりと見えるようになった。あのとき、たたかいに負けたことで、われわれは自信を失った。過去に何度も繰り返したように、この世で最も尊ばなければならない価値である「人間の命」を、無視してしまったからだ。」(『希望』エドアルド・シュワルナゼ著 朝日新聞社)


前回のブログでも述べたが、福島県からの帰りに、借りた線量計で計った私が住んでいる中野区の上高田団地の一時間あたりの線量率は、0.11から0.13マイクロシーベルトだった。練馬区の東大泉からこの団地まで、だいたいはその間で推移していた。これは、われわれが福島県の夏井川上流地点、福島第一原発事故現場から約40km近辺であろう地点で測定した値0.14に近いということだ。ここ中野区の団地から3kmほどの新宿区の百人町で調査公表している文科賞のデータでは、地上1メートル地点での測定で、0.07マイクロシーベルト毎時くらいとなっている。この差が何なのか、どういう意味をもっているのか、私にはわからない。しかしさらに、新聞で公表している全国の環境放射線量は、東京よりも大阪で高く0.08前後で推移し、愛媛県では0.08以上で推移しているのが最近である。この誰の目にみえる差がどういうものなのか、マスメディアは何も解説してくれない。これでは素人には、ミステリアスJapanである。おそらく、なお何かを隠しているのだろう。前回ブログで紹介した小出氏への質疑応答の中で、原発事故現場の地上亀裂から水蒸気がもれているという情報もあるが、それと小出氏の推定するメルトスルーとは関係があるとおもうかどうか、という質問があったが、小出氏は、そういう情報があることは知っているが、正確にはわからない、という返答であったとおもう。ちなみに、私は知らなかったが、その地下から水蒸気がでている、という報道とは、以下のものかもしれない。<8/17 Russia Today 福島第一・地面から水蒸気が噴き出している>……たしか、7月中での報道では、建屋を覆うシートの対策のことが盛んに広報されていて、1号機では8月中にやるとかいっていたはずで、その鉄骨を組む予行演習の様も放映されていたが、それはどうなったのだろうか? もし、このRussia Todayの報道が真実なら、そんな作業も現場ではできなくなってしまったのだろうか? となれば、むろん、小出氏が主張していたような地下ダム、融けた燃料が地下水に流れて拡散しないように防ぐ工事施工など、なおさらできないということだろう。しかし今さらになって、お手上げとはいえまい。

ペレストロイカに関わったシュワルナゼ元ソ連外相によれば、冒頭引用にあるように、チェルノブイリ事故時の情報開示の是非をめぐる内輪の抗争において、ペレストロイカ派は負けた、と言っている。これは、大統領だったゴルバチョフの認識とは根本的に違う認識なようだ。ゴルバチョフは、旧体制の弊害の露呈を認めたが、当時政府がほんとうに事実関係を知らなかったのであり、情報開示をめぐる守旧派や党官僚たちとの闘争のことは、その自伝では述べていない。だから、その時点で、改革の現実を認めても、すでにそこで負けたのだ、というシュワルナゼのような認識はない。シュワルナゼは、ゴルバチョフをこう評価している。――<人間として、父として、夫として、そして最後に彼の同僚として、私は大統領がフォロス(クリミア地方の大統領の別荘がある村)の宮殿の牢獄に拘禁されるという七十二時間にわたる悪夢を見ていた。彼は非常事態国家委員の囚われ人だった。しかし、彼が帰還し記者会見に姿を見せたとき、私には彼が以前のままの囚われ人であることが分かった。彼は自らの性格、思考、行動様式に囚われたままだった。いま私はきっぱりと断言できる。非常事態国家委員会を育んできたのは、ほかのだれでもない、彼自身なのだということを。彼は自分の不注意と決断力のなさ、賛成したり反対したりぐらつく傾向、人を見る目のなさ、本当の同盟者に対する無関心さ、民主勢力に対する不信感、国民という名の要塞を信じないことなどによって、非常事態国家委員会を育んできたのだ。国民のほうは、彼が導入したペレストロイカによって変わっていたというのに。>(前掲書)

さてわれわれ日本人はどうだろうか? 民主党が政権をとり革命といわれ、フクシマ原発事故が起こり、変わっただろうか? 今日9/2(金)の新聞広告に、見開きすべてを使った宝島社の広告がでている。「いい国つくろう、何度でも」とコピー文句をうたったその広告写真は、パイプくわえたマッカーサーが航空機から降り、まさに日本に上陸しようとしている、あの敗戦を象徴する有名な写真である。これを目にしてびっくりしない日本の大人はいないだろう。こんな広告を作った会社の真意は私にはわからない。広報では、敗戦や災害などの苦境を<不屈の精神と協調性>で乗り越えてきた日本人の歴史を喚起し、<日本人が本来もっている力を呼び覚ましたいと思いました>とある。しかし、写っているのは外国人。裏社会のことに関してよく書籍をだす出版社のことをおもうと、コピーは字義通りとしても、その写真とのずれから、表の意味を素直に受け取るわけにはいかない。素人ブログでも、こんな時期だから復興の力強さというのはわかるけど野田氏とマッカーサーを比べても……という意見になるようだ。つまりどうみても、日本人の感性では、イロニーにしかうつらない。つまりどういうことか? 写真どおり、この震災・原発事故後の日本は、敗戦し、アメリカに占領されようとしている、何度というか、もう一度、ということだ。この広告は、私たち日本人が触れたくない裏の現実を露呈させようとしている(というか、何か知っているのではないか? 近いうち、何か暴露本をだすのではないか?)。民主党代表選挙の得票率の内実をみても、これは菅氏と小沢氏が争ったときの票数と似ている。松下政経塾あがりの、毎朝駅前演説していたという律儀な人で、財務大臣あがり……ほんとに危機を乗り越えようとしているのかわからない、というか、この機に及んでそういう律儀ものを選んだ民主党議員の内訳は、あやしくなるばかりである。私は、原発事故後の負けを認めない菅元総理への不信任決議投票のときの、民主党から破門された松木議員の姿を思い出す。菅氏の煙幕演説で急遽変更され内輪で取り決めた不信任案否決の白札をもって壇上にあがった彼は、突然頭をふってポケットに隠し持っていた青札を入れた。初心どおり、首相へ不信任の票を投げ入れたのだ。私には、隣室で篭城していた小沢氏とともに、これら政治家の姿から、白虎隊や天狗党といった幕末の武士の様を連想した。われわれが松木氏を取り返す、と投票後の民主党執行部の処置に、福島県の子どもを疎開させようと決議案前の衆参議員大会で菅首相に訴えた原口元大臣は言ってみせたが、その気概はなお生きているのだろうか? ソ連では、エリチィンというとんでもない型破りな男がでてきた。ロシアの民衆も、魂をもった者の方を支援したのだ。日本はどうだろうか?……おそらくアメリカをはじめとした支配勢力は、日本国土をこのまま放射能づけにして日本人の行動を不能にさせたままに、いかにわれわれが敗戦で築いた財産を簒奪するかを考えているのだろう。全国に拡散されるままの線量計の数値が、そう物語り始めているようにみえる。

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