2022年3月14日月曜日

『進撃の巨人』論


<人を喰う話2 『進撃の巨人』論>を電子出版形式でだしてみた。

BCCKS / ブックス - 『人を喰う話 2』菅原 正樹著

epub言語のものをダウンロードしてみると、読みやすくなるようだ。

前回同様、摂津正さんに、表紙を描いてもらった。

以下は、前書きの添付。

※ 仕事帰宅後、昨夜のNHKの進撃アニメの録画をみてからこのブログを書いている。なんと生々しいことか。東浩紀等も指摘しているように、ウクライナとロシアは文化的に兄弟のようなものだ。が、ウクライナのここ10年来の右傾化が、この結果だ。欧米エリート・エスタブリッシュメント側は、もともとウクライナをNATOになど入れる気などなく、中途半端な曖昧状況の方が都合がよかったから、いまも、口先支援で見殺しにするのが判断なのだろう。降伏もさせてもらえないで、ゼレンスキーが追い込まれているように私には見える。日本のマスメディアの見出しをみているだけでも、ウクライナは、ロシアと組んだほうがよかったのだろうと思えてくる。欧米よりの中立化か、ロシアよりの中立化という差異のために、市民が犠牲を強いられている。もともとはゼレンスキーは、欧米仲間にはいりたがったが断られたので(訂正; いや、ロシア側にだったかもしれない。記憶曖昧。)、そのすきに右翼勢力が取り巻いた、といわれている。戦争をやめるのは簡単だ。くだらねえ男のメンツなど捨てて、本当の勇気と覚悟をもって、敵に対すればいい。

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0 はじめに


「威力偵察」の任務をもって潜入していたパラディ島から、ひとり生還した鎧の巨人ライナーは、大陸の帝国マーレの生地レベリオ収容区で過ごしていたある日、銃口を口にくわえた。自殺をはかろうとしたのである。やっと生き延びて来たのに、何故だろうか?

ライナーは、いわゆるPTSD、心的外傷後ストレスと呼ばれる病に襲われたのだろう。

この後遺症は、精神分析学を創始したフロイトが、第一次世界大戦での帰還兵の診察にあたって直面した人間の現実だった。フロイトはその強迫反復される症状分析から、人は、エゴイスティックな生の欲動だけでなく、無機物に還りたいという、死の衝動をも根底に抱えこんでいるのではないかと、推察した。(脚注1)

この「死の衝動」に襲われているのは、ライナーだけではなかった。進撃の巨人のエレンもまた、そうであることが提示される。

人喰いの巨人たちから解放され、平和を取り戻した島国から、海を隔てた大陸の帝国マーレへと潜入したエレンは、戦士として徴兵されるエルディア人の収容区にある病院施設で、「傷痍軍人」に変装する。そしてマーレでの戦闘開始の直前、ライナーを呼び出し、俺もおまえも同じだ、俺はおまえがわかる、と言うのだ。

エレンは、何を了解し、「同じ」だと言ったのだろうか? 何がわかったと言うのだろうか? たんに、同じ病気だね、ということだろうか? エレンは5回、「同じ」だと繰り返すのだが、その都度、この「同じ」の意味が、「PTSD」からそれを乗り越えていく認識に変わっていく。そのライナーとの対話のあと、エレンは世界を「地鳴らし」するために、始祖の巨人の能力を発揮していった。社会心理学的には、これは他人を巻き込んで実行される「拡大自殺」と言えなくもない。

最近の日本社会でも、京アニや渋谷ハロウィン騒ぎ中における京王線での、大阪の精神科クリニックでの放火事件などがある。(脚注2)

おそらく、そんな社会的な出来事の考察もが、この若い作者の思考射程にはいってはくるだろうが、そこにとどまらない広さ、大戦後議論されている哲学的な世界観、戦後の世界を推進させている科学的な自然・宇宙観もが、この作品から読みこめるだろう。



『人を喰う話』は、戦場のイラクへと観光に行き、いまはテロリストと世界から名指されるゲリラに捕捉され斬首された、当時24歳の香田証生さんの事件に刺激されて描かれたものである。(脚注3)

事件を受けてまもなく、私的なホームページ上に掲載されたその絵本に、近未来の破局世界を背景にしたともいえる『新世紀エヴンゲリオン』をめぐる論考を付記して、昨年2021年、電子出版ものとして再提示された。(脚注4)

『人を喰う話2』は、まさに人を喰っている話であるコミックを知るにおよんで啓発されたものだ。テレビでアニメ化された『進撃の巨人』を、中学生の息子と一緒によく見ていたものだ。が今回、高校を卒業する息子が進学なり就職なりと社会へと出てゆくにあたって、初老を迎えた父から、その世代の少青年たちに向け、この10歳から20歳くらいまでの子供たちの葛藤を描いた物語への考察を、世間に落としておきたい衝迫をもった。(脚注5)

香田証生さんの死後、戦場のイラクやインド洋での給油活動へと派遣されていた自衛隊員から、50人を超える自殺者が出ていたことが報道され、国会でも議論された。ライナーやエレンの自殺願望は、他人事でも絵空事でもない、日本に生きる若者にとっても身に迫る、人間や歴史の現実が反映されているのだ。(脚注6)

以下は、そうした社会、歴史的な問題をも加味して考察されたものだが、その背景にある自然科学的な認識も、現在の知見とも対照させて試みてみたものである。世や人の裏側にまで配慮を張りめぐらせる諌山氏の構成力は驚くべきものだが、その基になる構想に、昆虫の捕食生態や、遺伝子・ウィルス的な、生命の根源へとおもむく直観らしきものが提示されているからである。

まだ若いはずの作者に、ここまでのことが洞察できてしまうのか、という驚きには、諌山氏の才能をこえて、それだけ世界や人間の駄目さ加減が目立ってきている、ということのような気がする。だからこの試論は、年長者からの、申し訳なさとしてもなされているのかもしれない。

※原則的に、出版されたコミック本34巻を参照対象にして考察する。引用においては、コミックでは付けられている全漢字の振り仮名は省き、適宜、読みやすいよう、コミックでは付けられていない句読点を、こちらで付記した場合もある。

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