2022年3月9日水曜日

アイデンティティと逃走

 


〈祖母たちの竹槍よりもはかなかり木の銃構えるキエフの女性〉

(水戸市)中原千絵子(朝日歌壇2022/3/6 )



「勝つか、負けるか、それをぎりぎりの地点で迫られたときは、負けるがよい。負けて、無一物の姿となり、世間の陰を流れて歩くがよい。それが《ケンシ》の道だ。負けるはいや、勝つもいや、それでは世間には生きられぬ。だから世間を離れ一所不住の道をゆくのだ。負ける心、捨てる心、別れる心、それが《ケンシ》の心だとわたしはさとった。哀、よく言ってくれた。この世のすべては、亡ぶときは亡ぶ。山も、海も、川もそうだ。わたしは冥道さんを間違っていると思う。だが彼と争って勝とうとは思わぬ。ただし、手をつかねて負けるのも困る。だから力をつくしてやれる事はやろう。しかし、どうにもならぬ時は、負けるのだ。負けて、すべてを捨てるのだ。講を捨ててよい。一族の未来を捨ててよい。遍浪先生の思い出も、山も、川も、すべてを捨ててよい。人間として生きることさえもだ。われらは非常の民である。非常民の魂には非常識こそふさわしい。」(五木寛之著『風の王国』新潮文庫)



「80年代に自分が逃走を呼びかけたことが間違っていたとは思いません。人は必ず何らかのイデオロギー状況の中で生きるしかないものであるし、旧左翼と新左翼の問題を清算せずに進んでも絶対にダメだったと思うからです」


 「『アイデンティティーへの固執をやめよう』というあのときの提唱自体の大事さは、むしろ当時より強まっているとも思います。現在の重要課題は、アイデンティティー政治の問題だからです」


――かつて左派の「アイデンティティーへの執着」を解毒しようと考えた浅田さんが、今度は右派の解毒を試みているように見えます。


 「アイデンティティーへの固執を解毒するための逃走は、今も必要なのでしょう」


「カギカッコつきの『普通の人々』が、強烈なアイデンティティー政治を始めたのです。そこには『白人である』『男性である』というアイデンティティーへの固執があり解毒が必要ですが、洗脳を解く作業に近い難しさもあって簡単ではありません」

(〈「逃走論」40年後の世界 浅田彰さんは今なお「逃げろ」と訴える〉

https://digital.asahi.com/sp/articles/ASQ285VXYQ27ULZU009.html?iref=amp_rellink_05#comment_area)



「In all cases a group,whether a great power such as Russia or China or voters  in the United States or Britain, believes that it has an identity that is not being given adequate recognitionーeither by the outside world, in the case of a nation, or by other members of the same society. Those identity can be and are incredibly varied, based on nation, religion, ethnicity, sexual orientation, or gender. They are all  manifestations of a common phenomenon, that of  identity politics. 」


「In this book, I will be using identity in a specific sense that help us understand why it is so important to contemporary politics. Identity grows, in the first place, out of a distinction between one's true inner self and an outer world of social rules and norms that dose not adequately recognize that inner self 's worth or dignity. Individuals throughout human history have found themselves at odds with their societies.  But only in modern times has the view taken hold that the authentic inner self is intrinsically valuable, and the outer society systematically wrong and unfair in its valuation of the former. It is not the inner self that has to be made to conform to society's rules, but society itself that needs to change. 」

(FRANCIS FUKUYAMA『IDENTITY  THE DEMAND FOR DIGNITY AND THE POLITICS OF RESENTMENT』)

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